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やじるしVoice 「子育てに経済価値を認めよう」 働く女性の立場で考える本当の少子化対策
 

■ 結婚より仕事を大事にする理由

 日本は二〇〇五年、人口減少時代に突入した。
 人口減少により、特に高齢者人口の増加と若年者人口の減少のダブルパンチで、年金や医療保険、介護といった社会保障制度の制度設計に狂いが出ているのは周知のとおりである。
 そのうえ生産年齢人口の減少にともなう労働力人口の減少も懸念されている。二〇〇八年度の「少子化白書」によれば、この少子化の流れのままで、高齢者・若者・女性等の労働市場参加が進まなければ、労働力は二〇五〇年には二〇〇六年の三分の二の水準まで落ち込むと推測される。
 少子化の原因は、結婚しない女性、結婚の遅い女性が増えたためである。なぜ結婚しないかといえば、職業をもった女性の三割は結婚で職場を離れ、残りの七割の女性のうち七〇パーセントは妊娠時に仕事を辞める。したがって育児休暇の恩恵にあずかることができるのは、全体の二割の女性しかいない。
 いったん女性が職業を手放すと、正規社員としての再就職は非常に困難であり、パート・アルバイトとして仕事に従事することになる。そうすれば、正規社員としてがんばった女性と、離職した女性とでは、雇用保険や年金、賃金等すべて入れると、生涯賃金で一億円から二億円の差がつく。だから、結婚よりも仕事を大事にする女性が多くなる。
 その結果が少子化につながっているわけである。
 したがって、労働力不足の懸念を解消するためにも、女性のキャリアを尊重したうえで、再就職の推進を進める必要がある。
 また、あとで述べるアンペイド・ワークの存在も、大きな一因となっている。アンペイド・ワークの問題は、すべての人に共通する問題で、現在はまったく評価されない家内労働を評価し、妊娠・出産・育児に積極的、肯定的に取り組んでもらおうとするものである。
 これからの若い世代、とりわけ男女雇用機会均等法成立以後に思春期を迎えた若い人たちには、女性は家庭に入りたがっているという間違った認識をベースにして政策を進めてはいけない。
 彼女たちは学校教育のあいだは、男性と同じフィールドで過すことが要求される。卒業後、急にこれまでの価値観を変更して、女性であり母となることを要求されても、不公平感をもつだけで、対処できない。したがって、彼女たちが心底から納得できる制度設計が必要だと思う。
 現在でも政治に携わる女性は、数パーセントしかおらず、行政の局長級以上のクラスは一パーセント以下。だから、育児の現場にいる女性ではなく、男性が中心となってつくった制度には、夕方五時で終わる学童保育、病児保育の不備、自治体ごとに違う子育て支援制度、不妊治療の不備等、不便な点が多く、改善が望まれている。
 「女性は家でいるのが当然」ではなく、とにかく「女性も働きつつ子育てを支援する環境整備に努める必要がある」という認識をもたなければならない。小泉内閣において猪口邦子氏が少子化担当大臣に就任され、広報に努められたのち、その認識は多少広がってきたと感じている。
 その意味で猪口氏の功績は大きいし、私も当選以来この分野の政策の推進に関しては、猪口氏としっかりとタッグを組み、後方からバックアップして取り組んできた。
 二〇〇八年になって新少子化対策研究会を猪口氏とともに立ち上げ、閣議決定に提言を盛り込むなど活動を続けている。その検証の一例として、国の予算では五回まで妊婦検診の無料化を打ち出していたにもかかわらず、一度も無料検診を実施していない自治体もあった。
 これからの政治のあり方として、方針を決め予算をつけるだけでは不十分であることを認識し、予算の使途について厳しく検証していく必要がある。


■ アンペイド・ワークとは何か

 アンペイド・ワークの問題がある。アンペイド・ワークとは、家事・育児・介護などという家庭内の労働で、貨幣では評価されない労働の総称である。
 第二回世界女性会議採択文書のなかの言葉であるが、「婦人は世界の人口の五〇パーセント、公的労働の三分の一を占め、全労働時間の三分の二を占めているにもかかわらず、世界の所得の一〇分の一しか受け取っておらず、世界の生産の一パーセントしか所有していない」といわれる。
 しかも、これは、雇用機会均等法、育児休業法等、男女性差別の解消をめざしてつくられた既存の法律の適用で、解消するものではない。貨幣価値という評価の物差しが適用できない以上、現状ではまったく議論の俎上にすら載ってはいない。
 日本でも、有業女性の家事育児の時間は三時間弱、無業女性では五時間半、一方で男性は三十分弱という統計が出ている。
 男性と同等に働く女性が増えた近年の状況下では、このアンペイド・ワークの存在こそ、女性が結婚・妊娠・出産などによって仕事を辞める大きな要因であり、晩婚化・未婚化を進める大きな要因でもある。
 共働き主婦を例に挙げれば、外で男性と同程度の仕事をして帰宅し、さらに三時間近くアンペイド・ワークに従事しなければならない不公平が生じている。また、掃除という作業も、家の中ではアンペイド・ワーク、家の外では掃除担当という仕事になる。
 料理も子育ても介護も、家庭外では、調理師、保育士、介護士として評価される。家の中で仕事をした場合には評価されなくとも、外で仕事を行なえば、給料と子育てのための育児休暇等の社会保障制度が用意されているのである。
 またこのアンペイド・ワークは、女性のみの問題ではない。独身の男性も、クリーニングや外食などサービスと貨幣の交換を行なったり、自らアンペイド・ワークを行なうことで関わる問題でもある。


 

■ 年金算定に家事労働を組み入れよ

 一九九七年に当時の経済企画庁がアンペイド・ワークを貨幣評価した。その結果、九一年度の試算で約九八億円、対GNP比二一・六パーセント、その八五パーセントを女性が担っているという試算も出ている。
 同庁の試算によると、専業主婦の家事労働は、年間二七六万円で、 女性の平均賃金の二三四万円を四二万円も上回っている。仕事をもって家事もしている女性を含めた女性全体の無償家事労働評価額の年間平均額は約一七七万円で、一日一人当たりが家事をする時間は、三時間五十七分である。一方、男性は年間の無償家事労働は一日三十分で約二九万円。この評価方法はそもそも男性より低い女性の平均賃金を基に算定されたもので、過度に低く算定されているという批判もある。
 つい最近も、カナダでは家事労働の換算額が一二〇〇万円である、と話題になったことも付け加えておきたい。
 ところで、このような労働は、かつては家内労働として完結し、そのなかで道徳的に評価されていたものであった。しかし、成人男性のみを社会の労働力と認識する近代資本主義において、貨幣経済のなかで道徳的評価に貨幣価値は発生しない。それがゆえに女性は貨幣経済で評価されない家事労働よりも、評価される外部労働を選択する人が増え、晩婚化・未婚化が進むのである。
 具体的に説明すれば、儒教的価値観のなかで昔の大家族制における「母親」は、家庭内の金銭をすべて握り、子供の結婚にまで大きな指導力を発揮したものである。いまの専業主婦が、子供には「子供の人生がある」といわれ、「子育てしかしていない」と働く女性を羨望のまなざしで見るのとは大きな違いである。
 少子化対策として、アンペイド・ワークについても、年金の算定に組み入れてはどうだろうか。そもそも、「子供を生み育てる」「次世代を育成する」というのは、未来の労働力を再生産することであり、重大な責務と負担を伴う。
 「未来の宝」として育てた子供が、「親孝行」をして、親世代を養うことがなくなったいま、間接的に国家による「親孝行」と「次世代育成」のための仕組みをつくっていく必要がある。ドイツなどのように、家族の介護というアンペイド・ワークの一部の報酬を、年金の算定に組み入れている国もある。
 アンペイド・ワークが算定されると、結婚よりも仕事を優先する女性は減り、未来の自分への貯金として、結婚・出産・子育てに積極的に取り組む女性が増えることが予想される。そのことは、とりもなおさず少子化に解消につながるだろう。
 また、精神的にも、出産・育児・家事という仕事が具体的な金額として評価されるため、「子育てしかしていない」という自信喪失状態から、社会的評価を受ける仕事に従事しているという大きな自信につながり、女性の更年期の「うつ」の要因が減少すると期待される。
 夫婦間でも、家事が年金として算定されることで、男女ともに進んで取り組む人が増え、家庭円満につながるのではなかろうか。しかし、社会保障費の財源を考えるあまり算定を低くしすぎると、このような効果はそれほど期待できなくなる。
 
 松下政経塾在塾中に先輩から教えていただいた忘れえぬ言葉がある。
 「弱者は制度のないところに存在し、制度ができれば、いくばくかの矛盾が存在するにせよ、半分以上救いの手が差し伸べられたのも同然である」
 これは、まさしくアンペイド・ワークに対していえる言葉だと思う。貨幣で評価できる“見える経済”を、家内労働や契約不在の労働、農業等の“見えない経済”が下支えをしている。この目に見えない経済に評価を与え、「年金」や「納税」のシステムに反映させていく、これを私はライフワークとしたい。



(Voice 2009年2月号)